電工ペンチは電気工事士の基本工具です。見た目は似ていても、寸法・切断能力・グリップ形状はメーカーごとに公表値が異なります。
この記事では、第一種電気工事士が、電工ペンチの選び方と定番モデルを解説します。試験対策と現場用、両方の視点でまとめました。
電工ペンチと一般ペンチの違い
「電工ペンチ」は電気工事でよく使われるペンチの通称で、メーカーの正式な分類は「ペンチ」です(HOZAN P-43-175・フジ矢 1050-175 とも)。本記事では心線の切断・折り曲げ・整形に使いやすいペンチという意味で使います。一般的なペンチとの違いを整理します。
| 項目 | 電工ペンチ | 一般ペンチ |
|---|---|---|
| 先端形状 | 細く尖って細工しやすい | やや太め |
| 刃部 | 銅単線を切れる仕様(例:フジ矢 1050-175 は銅線φ3.5mm) | 鉄線も切れるが電線整形には不向き |
| グリップ | 滑り止め付きの樹脂・絶縁グリップ品もある | 樹脂のみが多い |
| サイズ | 150〜200mm | 150〜250mm |
電気工事士技能試験の指定工具にもペンチ(電工ペンチ)が含まれており、屋内配線の現場では一日中握り続ける道具です。なお、ペンチのJIS規格は JIS B 4623(ペンチ) で、国内主要メーカーの多くがこの規格をベースにした製品を出しています(JIS適合の表示があるかどうかは型番ごとに異なるため、仕様書で確認してください)。

電工ペンチは次の部位で構成されています(図1-2)。
- 先端(つかみ部):心線をつかんで曲げる・整形する
- 切断刃(支点寄り):銅単線を切断する箇所
- 支点(リベット):ガタつきの少ないものを選ぶ
- グリップ(エルゴノミック):滑り止め付きが握りやすい(一般的な樹脂グリップは絶縁工具ではありません。活線作業用工具は IEC 60900 適合品を別途選ぶ)
電工ペンチの選び方【4つのポイント】
① サイズ(全長)
電工ペンチは 150mm / 175mm / 200mm が中心。このうち 175mm を筆者は勧めます。なお技能試験の指定工具は「ペンチ」とだけ定められており、寸法やメーカー・型番の指定はありません。
| サイズ | 用途 | 対応電線太さの目安 | おすすめ層 |
|---|---|---|---|
| 150mm | 細物・精密作業 | 型番ごとの公式仕様で確認 | 手の小さい方・狭所作業中心 |
| 175mm | 第二種電気工事士技能試験/屋内配線 | 型番により異なる(例:HOZAN P-43-175 は銅線3.5mmφ/銅より線5.5mm²/VVF線1.6mmφ×3芯) | 受験生・屋内配線中心の方 |
| 200mm | 汎用・現場全般 | 型番ごとの公式仕様で確認 | 幅広い作業を1本で済ませたい方 |
| 225mm | 太線切断・力作業 | 型番ごとの公式仕様で確認 | 幹線・配電盤工事中心 |
※ 対応太さはモデルによって異なります。購入前に必ず各メーカーの仕様書で切断能力を確認してください。
② 噛み合わせの精度
刃部の 噛み合わせの精度 は実物を見ないと分かりにくい部分ですが、品質の差が最も出るところです。先端が完全に閉じる、ガタつきがない、切れ味が落ちにくい──このあたりは国産メーカー(フジ矢、ロブテックス、KEIBA)が安定しています。
③ グリップの形状・素材
長時間握っても疲れないエルゴノミックグリップを選びましょう。汗をかいても滑らないラバー系が理想です。
④ 絶縁グリップ(電気工事士なら推奨)
低圧活線作業に備えるなら、絶縁工具規格(IEC 60900:2018:交流1000V/直流1500Vまでの活線作業用手工具)への適合表示がある製品を、型番単位で確認して選んでください。ただし日本で低圧の充電電路の敷設・修理や、配電盤室・変電室などで露出充電部のある開閉器を操作する業務には、低圧電気取扱業務特別教育(労働安全衛生規則 第36条第4号)の受講が必要です。原則は停電・検電してから作業することに変わりはありません。
試験用の定番:HOZAN P-43-175
第二種・第一種電気工事士技能試験向けとして定番のホーザン(HOZAN)P-43-175 です。
- 呼び寸法:175mm/重量 288g
- 切断能力:銅線 3.5mmφ/銅より線 5.5mm²/VVF線 1.6mmφ×3芯
- 刃部硬度:HRC60
- 突合せ刃(メーカー表記。刃の形式)
- 標準価格:税抜 ¥2,540(税込 ¥2,794)
いずれもメーカー公式の製品ページに掲載されている数値です。試験対策として「指定どおり」を揃えたい受験生には、まず候補にしてよい1本です。
現場用の定番:フジ矢 175mm 電工ペンチ
フジ矢は大阪・東大阪の工具メーカーです。175mmの定番モデル 1050-175 は、メーカー公開仕様で 全長192mm・質量285g、切断能力は 鉄線 φ3.0mm/銅線 φ3.5mm、握りやすい樹脂グリップ、刃の硬度も十分です(VVFの切断能力はメーカー公式に記載がないため、ここでは示しません)。
メーカー標準価格は 税込5,247円 です(実勢価格は販売店・時期で変動するため、購入時に販売ページで確認してください)。
気になる点:切断能力はメーカー公式で鉄線φ3.0mm/銅線φ3.5mmと定められています。この範囲を超える線材(太い鉄線やピアノ線など)を切ると刃こぼれの原因になります。ピアノ線は適合表示のある専用工具を使ってください。
電工ペンチ 1050-175(175mm)
フジ矢の175mm電工ペンチ。メーカー公式の切断能力は鉄線φ3.0mm/銅線φ3.5mm。握りやすい樹脂グリップで屋内配線の定番。
- 全長192mm・質量285g(メーカー公式)
- 鉄線φ3.0mm/銅線φ3.5mm 切断(メーカー公式)
- 技能試験・現場ともに対応
※価格は変動します。クリック時点のショップ表示価格をご確認ください。
その他の国産・海外定番ブランド
以下のブランドも電工用ペンチをラインアップしています。可能なら店頭で握り比べてみてください。
- HOZAN(ホーザン) ─ 試験推奨の P-43-175 が定番。試験対策ならまずここから。
- フジ矢(FUJIYA) ─ 大阪・東大阪の老舗。屋内配線の現場で最も見かけるブランドのひとつ。
- ロブテックス(ロブスター/LOBTEX) ─ 大阪・東大阪の老舗工具メーカー。切れ味重視のラインが多く、プロに根強い人気。
- KEIBA(マルト長谷川工作所) ─ 新潟・三条の老舗。噛み合わせ精度が高く、ニッパ・ペンチ系のクオリティに定評。
- マーベル(MARVEL) ─ 電設工具の専門メーカー。電工ハサミやケーブルカッターなど、電気工事向けのラインが充実しています。
- ベッセル(VESSEL) ─ コスパに優れ、最初の1本に向くモデルが多い。
- KNIPEX(クニペックス/ドイツ) ─ 電工ペンチは国産が握りやすいという声が多いものの、コブラ(ウォーターポンププライヤー)は現場での評価が高く根強い人気があります。後述します。
いずれも175mm前後の主力モデルがあります(価格は各社公式・販売店で確認)。握り心地は手の大きさで変わるので、可能なら工具店で実物を握ってから決めてください。
あわせて持ちたい関連工具:KNIPEX コブラ(ウォーターポンププライヤー)
電工ペンチではありませんが、ロックナット締めやコネクタの増し締め・バラシ作業で活躍する関連工具として、ドイツKNIPEX(クニペックス)の コブラ はプロの腰道具に欠かせない一本です。電工ペンチと「両方持つ」のがプロの定番運用。
サイズは250mm(中型)を筆者は選んでいます。詳しくは電気工事士の腰道具の中身を全部公開で他の常備工具とあわせて紹介しています。
電工ペンチ・ニッパ・圧着ペンチの使い分け
「ニッパで代用できる?」「圧着ペンチと何が違う?」──混同しがちな3工具の役割分担を、まずベン図で整理します。結論:役割が違うので、それぞれ別に揃えるのが基本です。
3工具のちがい(用途別)
- 電工ペンチ:心線の切断・折り曲げ・整形が主用途。屋内配線でいちばん使う1本
- ニッパ:細線の切断専用。インシュロックや制御線などを正確に切る
- 圧着ペンチ:圧着専用(リングスリーブ用と裸圧着端子用は別の工具)。電工ペンチでは代用不可(圧着加工は JIS C 9711 適合の圧着工具を使う必要があります)
技能試験では電工ペンチと圧着ペンチは指定工具の別物です。混同しないよう注意してください。

形状の違いを整理すると次のとおりです。
- 電工ペンチ:先端が細く、刃部あり。折り曲げ・整形・切断が1本でできる(主な用途:心線切断・のの字曲げなどの整形)
- ニッパ:刃が細く切断専用。細線をきれいに切れる(整形は不可)。主な用途は細線切断・インシュロック切り
| 作業 | 電工ペンチ | ニッパ |
|---|---|---|
| 太い心線の切断(可否は型番の切断能力で確認。例:P-43-175 は VVF 1.6mm×3芯まで) | 〇 | △ 強力ニッパなら可だが負担大 |
| 細線(0.5mm制御線)切断 | △ 先端でつぶれやすい | 〇 |
| 心線の折り曲げ・整形(のの字曲げ等) | 〇 | × |
| インシュロック切断 | △ | 〇 |
| 第二種技能試験の指定工具 | 必須(ペンチ) | 任意 |
電工ペンチが「整形+切断の万能タイプ」、ニッパが「切断特化」と覚えてください。とくにのの字曲げ(ランプレセプタクル等の端子に巻き付ける加工)は、ねじ端子を使う課題・施工条件で必要になる作業で、電工ペンチの先端形状が活きる場面です。
電工ペンチを長持ちさせるコツ
- 規格外の硬い線材を切らない: 電線(銅線)用途が前提です。メーカーが示す鉄線の切断能力を超える線材やピアノ線・焼き入れ鋼線を切ると、刃こぼれの原因になります
- 使用後に油を一滴: 支点(摺動部)に少量の油を差す(P-43-175 の取扱説明書では定期的な注油で摩耗・ガタを防ぐよう案内)
- 落下注意: 高所からの落下で噛み合わせが歪むことがあります
- 濡れたら拭く: サビの原因。特に湿気の多い夏場は乾いた布で拭く習慣を
電工ペンチが向いている人 / 向いていない人
向いている人
- 屋内配線(VVF 1.6/2.0mm)を毎日触る電気工事士
- 心線の切断・折り曲げ・整形を1本でこなしたい方
- 技能試験で「指定工具どおり」の構成を整えたい受験生
向いていない人(別工具を検討してよい人)
- 細線(制御線・信号線)の切断が中心の方 → 強力ニッパが向きます
- 太径ケーブルの切断が多い方 → ケーブルカッター(工具の切断能力と線種・外径を照合)
- 鉄線・ピアノ線の切断を頻繁に行う方 → 強力型のラジオペンチや専用カッターを別途
まとめ
電工ペンチ選びのポイントを最後にまとめます。
- サイズは 175mm が標準(試験・屋内配線の主力)
- 試験用なら HOZAN P-43-175(突合せ刃・175mm・銅線3.5mmφ/銅より線5.5mm²/VVF線1.6mmφ×3芯)が無難
- 現場用なら フジ矢 1050-175 などの175mmペンチが定番(公式の切断能力は鉄線φ3.0mm/銅線φ3.5mm。VVFは公式未記載)
- 国産ブランド(HOZAN・フジ矢・ロブテックス・KEIBA・マーベル・ベッセル等)は寸法・切断能力・材質をメーカーが公表しており、仕様を確認して選べる
- ニッパ・圧着ペンチとは別物、それぞれ揃えるのが基本
- 手入れ(油差し・拭き取り)で長く使える
電工ペンチは毎日使う基本工具です。ノーブランド品は刃材・硬度・切断能力が公表されていないことが多く、性能を確認して選べません。仕様を公開しているメーカーの1本を選んでください。
関連記事として電気工事士の腰道具の中身を全部公開、VVFケーブルの剥ぎ方 4つのテクニック、絶縁抵抗計の使い方はメガー(絶縁抵抗計)の使い方、ストリッパーの製品比較はVVFストリッパー比較もあわせてどうぞ。
よくある質問
- 試験用の電工ペンチでおすすめは?
- 第二種電気工事士技能試験では HOZAN P-43-175 が試験会場でもよく見かける定番です。メーカー公式の切断能力は**銅線3.5mmφ/銅より線5.5mm²/VVF線1.6mmφ×3芯**、刃部硬度HRC60で、試験課題に必要な作業が無理なくこなせます。
- 電工ペンチと一般ペンチ、どこで見分けますか?
- 先端が細く尖っている、切断刃部が銅単線を切れる仕様、グリップが滑り止め加工されている──この3点で判別しやすいです。一般ペンチは先端が太く、グリップは樹脂のみのことが多いです。
- サイズ違いで複数買うべきですか?
- メインは175mm、サブで150mmがあると死角が減ります。スイッチボックス内の細かい作業や、握力に自信がない方には150mmが扱いやすいです。200mm以上は太線・幹線工事向きなので、屋内配線中心なら175mm 1本でも多くの場面に対応できます。
- 海外ブランド(KNIPEXなど)と国産、どちらが良いですか?
- 電工ペンチ単体では、握り心地・コスパの面で国産(HOZAN・フジ矢・ロブテックス・KEIBA等)が選びやすい印象です。KNIPEXはコブラ(ウォーターポンププライヤー)の評価が高く、用途別に使い分けるのが現実的です。
- 電工ペンチと圧着ペンチは同じものですか?
- 別物です。電工ペンチは心線の切断・折り曲げ・整形用で、リングスリーブや裸圧着端子の圧着には使えません。リングスリーブの圧着は JIS C 9711 適合のリングスリーブ用圧着工具(HOZAN P-738/P-77、ロブテックス AK17A など)が必要です。
- 中古の電工ペンチは買っても大丈夫ですか?
- おすすめしません。刃の噛み合わせは経年で歪むことがあり、外見では分からないトラブルが起きる場合もあります。新品でも公式価格が数千円台(例:HOZAN P-43-175 税込¥2,794)なので、新品を選ぶのが無難です。
- 電工ペンチで指を切ったりしませんか?
- 切断時に切れ端が飛んでケガをするケースはあります。長時間使用で握力が落ちた時にも注意が必要です。手袋の着用、切断片が飛ぶ方向に自分や周囲の人がいないことの確認、保護メガネの使用──といった基本を守ることでリスクを下げられます。