「電気工事士の腰道具って何が入ってるの?」
現場を経験していない方には謎の多い「腰道具」。電工さんのベルトにぶら下がったあのポーチの中身を、第一種電気工事士が自分の構成10項目として型番つきで整理しました。
工具を選んだ理由や使い方のポイントも合わせて解説するので、これから腰道具を揃えようとしている方にも参考になるはずです。
腰道具とは?
腰道具とは、作業ベルト(腰ベルト)に取り付けるホルスターやポーチに工具を差して、体の周囲に携帯するスタイルの工具セットのことです。
電気工事の現場では、高所や狭い場所での作業が多いため、「両手を使いながら必要な工具にすぐアクセスできる」腰道具スタイルがあると作業が大幅に楽になります。工具を取りに降りる手間を省けるぶん、作業効率が上がります。
腰道具の中心になるのは電工ナイフですが、選び方は現場で使える電工ナイフの選び方で詳しく解説しています。電動工具の選定はマキタ vs HiKOKI vs パナソニック電動工具比較、絶縁抵抗測定はメガー(絶縁抵抗計)の使い方、剥き工具の比較はVVFストリッパー比較も参考になります。
腰道具10本の構成と型番

バランス配置の鉄則:
- ⭕ 重い工具を左右に振り分けて腰の歪みを防止
- ⭕ 利き手側に多用工具(ナイフ・ペンチ)を配置
- ✕ 片側に集中させると慢性腰痛の元
- ✕ 後ろに重い物を置くとしゃがめなくなる
- ※ 幅広のサポーターベルト推奨(幅は筆者の目安で70mm前後)
腰ベルト・サポーター・サスペンダー
腰への負担を減らすなら、幅広(70mm前後)のサポータータイプ腰ベルトを選びます。工具が増えると総重量が3〜4kgになることもあり、細いベルトでは荷重が一点に集中します。
メーカーは好みで構いませんが、ニックス(KNICKS) か 神王工業(KH) の幅広サポーターベルトを筆者は使っています。バックル金具のしっかりしたものを選ぶと、フル装備時の安定感が変わります。
工具ホルスター・ポーチ(腰袋)
使用品:ニックス(KNICKS)KC-201D 建築用2段腰袋
工具を素早く抜き差しできる「差しタイプ」と、小物をまとめる「2段袋タイプ」を併用しています。正式名称は**「KC-201D/D1680建築用2段腰袋」(メーカー公式)。両側D環付き・落下防止コード対応です(寸法や細部の構造は販売サイトによって表記が異なるため、メーカー公式で確認してください)。フルハーネス型墜落制止用器具(旧称:安全帯)との併用可否はメーカーに確認してください なので、高所作業が多い現代の電気工事現場で扱いやすいモデルです。なお、高さ2m以上で作業床を設けることが困難なところ**でフルハーネス型を使う業務(ロープ高所作業を除く)には、墜落制止用器具の特別教育(労働安全衛生規則 第36条第41号)の受講が必要です。仕様・現行型番はメーカー公式で確認してください。
革製の本格派が好みなら同社の KGC-201BA(グローブ革) も選択肢になりますが、価格は大きく上がります(メーカー公式価格で確認)。雨の現場が多い・手入れの時間が取りにくい方は、まずはナイロン製の KC-201D から始めるほうが扱いやすくなります。
工具①:電工ナイフ
使用品:デンサン DK-670F(折りたたみ式・レンチ搭載タイプ)
VVFケーブルや CV ケーブルの外装を剥くための必需品。折りたたみタイプは刃が露出しないので、腰道具に差しておいても腿に当たって怖い思いをしないのがメリット。現場作業では常時携帯しています。DK-670F はメーカー公式仕様で リング部に17mm/21mmのレンチ機能を搭載しており、コネクタ部のロックナット作業でも工具を持ち替えずに済みます。刃長76mm、本体40×180×16mm・150g、開いた刃を固定するライナーロック方式、クリップ付きです。
選んだ理由:デンサン(ジェフコム)の電工ナイフは刃の厚みと角度が電工作業向けに設計されており、VVFの外装に刃を入れたときの取り回しがしやすいと感じます。ライナーロック方式 で開いた刃が確実に固定されるため、不意の閉じ込み(指を挟む)リスクが小さいのも安心材料です。
電工ナイフ DK-670F(折りたたみ式)
17×21mmレンチ搭載の折りたたみ式電工ナイフ。ライナーロック方式。
- 17×21mmレンチ搭載
- ライナーロック方式で安全
- 折りたたみ式
※価格は変動します。クリック時点のショップ表示価格をご確認ください。
工具②:ペンチ
使用品:フジ矢 1050-175(電工ペンチ 175mm)
心線の切断・折り曲げ・ジョイント部の整形など、最も出番が多い工具のひとつです。切断能力はメーカー公式で鉄線φ3.0mm/銅線φ3.5mm(型番により異なるため購入時に確認してください)、JIS B 4623:1998(ペンチ)対応の標準モデルです。公式の能力を超える太さの線材を切ると刃こぼれの原因になるので、太物にはケーブルカッターなど、対象の線種・外径に合った切断能力を持つ工具を使い分けてください。
選んだ理由:フジ矢(大阪・東大阪の老舗メーカー)の電工ペンチは樹脂グリップの形状が手に収まりやすく、長時間握っても疲れにくいと感じます。第二種電気工事士の技能試験から実務まで幅広く使える 1本です(公式の用途は切断・つかむ・曲げる・ねじる)。
工具③:ドライバー(プラス・マイナス)
使用品:ベッセル(VESSEL)ボールグリップドライバー No.220(+2×100mm)
コンセント・スイッチ・分電盤などのビス締め・緩めに毎日使います。プラス2番(+2)×軸長100mm が屋内配線用の汎用サイズで、マイナスドライバーも6mm幅を1本セットで揃えておくと安心です。
選んだ理由:ベッセル(VESSEL/大阪)は電工ドライバーのメーカーで、筆者の周りでもよく見かけます。マグネット入り でビスをくっつけられるため、片手作業や分電盤の奥側の作業で取りこぼしを減らせます。ボールグリップは握りが太めで回す力が伝わりやすく、価格帯も手に取りやすい範囲という印象です。
工具④:ウォーターポンププライヤー
使用品:KNIPEX(クニペックス)8701-250 コブラ ウォーターポンププライヤー
ロックナットの締め付けや、太い電線管(ねじなし電線管・PF管コネクタなど)の作業に使います。全長250mm、25段階の調整機構 つきで、パイプつかみ能力φ50mm、ナットつかみ能力46mmまで対応します(メーカー公開仕様)。
選んだ理由:クニペックスはドイツ・ヴッパータール(Wuppertal)に本拠を置く老舗ブランドで、ボックスジョイント構造により横ブレが少なく、プッシュボタンで開口幅を片手で素早く調整できる点が特徴です。国産品より価格は高めですが、構造上ジョイント部のガタつきが出にくい設計です。
工具⑤:スケール(コンベックス)
使用品:タジマ Gロック-25 5.5m(GL25-55BL)
ケーブルの寸法出し・ボックスの位置決めなど、測定作業に毎日使います。テープ幅25mm/長さ5.5m/JIS1級のオールラウンドモデルで、455mmピッチ(ヨンゴーゴー)表示付き・ストラップ・大型ベルトクリップ・爪飛び防止プロテクターを備えています(メーカー公式仕様/2026年8月確認)。なお同じ「Gロック25 5.5m」でもセフ・マグ爪など派生モデルが多いので、購入時は型番を確認してください。
選んだ理由:タジマ(東京・板橋)はコンベックスのメーカーで、テープのコシ(自立する長さ)と耐久性が業務用としてバランスが取れていると感じます。0点補正移動爪・爪飛び防止プロテクター・ショックアブソーバー(公式仕様) があるので、脚立上から落としてしまっても致命傷になりにくいのは現場ではありがたいポイントです。
工具⑥:ニッパ
使用品:フジ矢 770-150(電工名人 強力ニッパ)
細い電線(制御線・信号線・心線の端末カットなど)の切断や、インシュロック(結束バンド)の余り処理に使います。ペンチより小回りが利くため、スイッチボックス内の細かい仕上げに向きます。
選んだ理由:フジ矢の電工名人シリーズはプロ向けのニッパで、刃の合わせと焼き入れの精度が安定しているため、長く使っても切れ味の落ち方が緩やかな印象です。
工具⑦:電工ハサミ
使用品:マーベル MMS-833RN(電工ハサミ R刃)
VVFの外装カットや絶縁被覆のカット、結束テープの整形などに使います。ナイフより刃が露出している面積が小さいぶん扱いやすく、慣れないうちはハサミから入るのも一つの方法です。ただしハサミも刃物であり、工具の選択が高所作業の安全対策の代わりにはなりません。高所では停電の確保・墜落制止用器具・足場と姿勢の確保・保護具を優先してください。R刃(アール刃=ゆるく湾曲した刃)はケーブルが刃先から逃げにくく、切り口がきれいに揃いやすい設計です。全長185mm・質量165g・刃長45mmで、VCTケーブル(3×5.5sq)や2号モール(21mm)の切断が目安です(メーカー公開仕様)。
工具⑧:検電器
使用品:長谷川電機 HTE-610(低圧交流専用検電器)
活線(電気が流れている状態)かどうかを確認するための安全工具です。作業前の死活確認に欠かせない 1 本 です。HTE-610 は低圧交流専用の検電器で、AC 50〜600V(50/60Hz)対応、被覆の上からでも反応し、感度調整つまみを備えます(メーカー公開仕様)。直流回路や高圧回路には使えませんので、扱う電路に合った定格の検電器を選んでください。被覆の上からの検電は感度や被覆厚の影響を受けるため、検電の方法は必ず使用する検電器の取扱説明書に従ってください。停電確認では、測定前後に既知の活線で検電器が正しく動作することを確認する手順(動作前後点検)を必ず入れます。
なお、絶縁抵抗の測定が必要な場面では検電器ではなくメガーを使います。詳しくはメガー(絶縁抵抗計)の使い方を参照してください。
感電事故を防ぐための重要な安全工具です。ケチらずに信頼性の高い製品を選んでください。
工具⑨:ラジオペンチ
狭い場所での電線の引き回しや、細かい端子の整形に使います。プライヤーと違い先端が細いので、スイッチボックス内や器具裏側の作業に向いています。樹脂グリップは滑りにくく握りやすいものですが、絶縁工具ではありません。心線に触れる作業は必ず停電・無電圧を確認してから行ってください。
工具⑩:カッターナイフ(予備)
電工ナイフが使いにくい状況、または養生テープ・段ボール・結束バンドのカットなどに使う予備工具です。心線の被覆剥きにはカッターは使わない のが基本ルール(刃を当てた跡から経年で被覆が割れる原因になります)。あくまで養生作業用と割り切ってください。
ビギナー向け「まず揃えるべき7本」
※ 図5の金額は2026年8月時点の目安です。選ぶメーカーや購入時期で変わります。
腰道具を全部揃えようとすると予算が必要です。まず始めるなら、以下の7本を優先して揃えることをおすすめします。
| 優先順位 | 工具 | 理由 |
|---|---|---|
| 1 | 電工ナイフ | ケーブル外装剥きの基本 |
| 2 | ペンチ | 最も出番が多い |
| 3 | プラスドライバー(No.2) | ビス締めで必須 |
| 4 | マイナスドライバー(6mm) | 同上 |
| 5 | 検電器 | 死活確認に欠かせない安全工具 |
| 6 | スケール | 寸法出し全般に必要 |
| 7 | プライヤー | ロックナット締め等で必要 |
この7本は最初に揃えたい基本セットです。ただしリングスリーブで電線を接続する場合はリングスリーブ用の圧着工具が別途必要で、技能試験でも必携工具に挙げられています。作業内容に応じて圧着工具・VVFストリッパーなどを追加してください。
腰道具を揃えるときの注意点
安物買いは長い目で損
※ 図6の金額は価格帯からの試算イメージで、実際のコストは使用頻度・現場環境で大きく変わります。
検電器など安全に直結する工具で極端に安価なものを選ぶのはリスクが大きいです。特に検電器やテスタでは、メーカー公式の仕様に適合規格や安全等級(IEC 61010-1 の CAT区分など)が明記されている製品を選ぶと安心材料が増えます。なお IEC 61243-3 は「二極式(接触型)低圧検電器」の規格なので、ペン型の非接触式検電器の選定基準としてそのまま当てはめることはできません。
自分の手のサイズと利き手に合わせる
ペンチやドライバーは実際に握ってみてから買うのが理想です。手の小さい方は 150mm のペンチ、力のある方は 200mm のペンチ に切り替えると楽になることがあります(筆者の見解)。できれば工具店で試握りしてから購入することをおすすめします。
また、右利き/左利き で腰袋の配置は逆になります。図2のミラー配置のように、ペンチなど高頻度工具を利き手側に、ドライバー・カッターなど低頻度工具を反対側に置くと、無駄な動きが減って腰のひねりも軽減されます。
腰道具スタイルが向いている人 / 向いていない人
向いている人
- 屋内配線・改修工事など、現場で動き回りながら工具を使う方
- 高所作業・狭所作業が多く、両手を空けて作業したい方
- 毎日同じ工具セットを使い続ける方(電気工事士・電気通信の設備工事に携わる方など)
向いていない人(工具箱中心で良い人)
- 据え置き作業が中心の方(盤組立・工場内作業など)
- 月に数回しか工具を使わないDIYユーザー
- 腰痛を抱えており、ベルトでの加重を避けたい方(ショルダーバッグやキャスター付きツールバッグが向く)
まとめ
腰道具の定番構成10本をまとめると以下のとおりです。
- 電工ナイフ(デンサン DK-670F)
- ペンチ(フジ矢 1050-175)
- プラス・マイナスドライバー(ベッセル No.220)
- プライヤー(KNIPEX 8701-250 コブラ)
- スケール(タジマ Gロック-25 / GL25-55BL)
- ニッパ(フジ矢 770-150)
- 電工ハサミ(マーベル MMS-833RN)
- 検電器(長谷川電機 HTE-610)
- ラジオペンチ
- カッターナイフ(養生用)
腰袋はニックス KC-201D、ベルトは幅広サポータータイプ、総重量が3kgを超えるならサスペンダー併用 — これが基本の形です。初めて揃えるなら、まず「7本の基本セット」から始めて、作業内容に応じて徐々に追加していくのが無駄がありません。
これから資格を取る方は第二種電気工事士 技能試験に必要な工具セットや第二種電気工事士 学科試験対策、ケーブル処理の腕を磨きたい方はVVFケーブルの剥ぎ方 4つのテクニック、ストリッパー選びはVVFストリッパー比較もぜひあわせてご覧ください。
価格情報はいずれも2026年8月時点の参考価格で、実勢価格は変動します。
よくある質問
- 腰道具一式を揃えるのにいくら必要ですか?
- 金額は選ぶメーカー・グレードで大きく変わるため本記事では総額を示しませんが、まず必須7本を揃え、慣れてから追加していく順序を勧めます。検電器など安全工具と、毎日触るペンチ・ドライバーは品質の良いものを選ぶと長く使えます。
- 腰道具と工具箱、どちらを優先すべき?
- 現場作業がメインなら腰道具優先です。工具箱は持ち運び中の保管・予備工具用と割り切るほうが効率的です。DIYや自宅作業がメインなら工具箱でも十分です。
- ニックスの腰袋は本当に10年使えますか?
- 腰袋の寿命はメーカーが公表していないため、年数の目安は示せません。布製のKC-201Dは革製より手入れの手間が少ない傾向ですが、革製モデル(KGC-201BAなど)はオイルケアと乾燥が前提になります。雨の現場が多い方や手入れの時間が取りにくい方はナイロン製、質感を重視する方は革製と、手入れの手間で選び分けてください。
- 検電器が反応しないときはどうすればいい?
- まず電池を確認してください。電池式の検電器は使用頻度にもよりますが定期的な交換が必要です。電池が新しいのに反応しない場合は感度調整ボリュームをチェック、それでもダメなら故障の可能性があるので新しいものに交換してください。検電器の不調は感電事故に直結するので、信頼性最優先で運用してください。
- 腰道具を持つと腰が痛くなります。対策は?
- 幅広サポーターベルト(70mm以上)の使用と、左右のバランス配置がポイントです。重い工具(プライヤー・電動ドライバー)を片側に集中させると体が傾いて腰痛の原因になります。利き手と反対側にも工具を配置して左右の重量を均等にしましょう。総重量3kgを超える日はY型サスペンダーを併用すると肩で荷重を分散できます。
- 左利きでも同じ腰道具で使えますか?
- 工具自体は左右兼用のものが多いですが、配置は左右反転させてください。利き手側にペンチ・電工ナイフなどの高頻度工具、反対側にドライバー・カッターを配置します。一部のホルダーは左右専用設計(電工ナイフホルダーや圧着ペンチホルダー)なので、購入時に左利き用の有無を確認すると安心です。
- ニックス(KNICKS)と神王工業(KH)はどう違いますか?
- どちらも国内の腰道具メーカーで現場でよく見かけます。ニックスは腰袋・ホルダー類のラインアップが豊富で、カスタムしながら長く使いたい方に向きます。神王工業(KH)は幅広サポーターベルトやサスペンダー類で人気があり、腰負担の軽減を重視する方に支持されています。両ブランドはパーツ互換性のあるものも多く、ベルトはKH・袋はニックスといった混在運用をしている人も筆者の周りにはいます。