電工ペンチは電気工事士なら毎日使う相棒です。「どれも同じに見えるけど、握ってみると全然違う」──これが筆者の本音です。
この記事では、第一種電気工事士の筆者が現場で長年使い続けてきた経験から、電工ペンチの選び方と定番モデルを解説します。試験対策と現場用、両方の視点でまとめました。
電工ペンチと一般ペンチの違い
電工ペンチは、心線の切断・折り曲げ・整形に特化したペンチです。一般的なペンチとの違いを整理します。
| 項目 | 電工ペンチ | 一般ペンチ |
|---|---|---|
| 先端形状 | 細く尖って細工しやすい | やや太め |
| 刃部 | 銅単線(φ3.5mm程度)を切れる仕様が多い | 鉄線も切れるが電線整形には不向き |
| グリップ | 滑り止め付きの樹脂・絶縁グリップ品もある | 樹脂のみが多い |
| サイズ | 150〜200mmが主流 | 150〜250mm |
電気工事士技能試験の指定工具にもペンチ(電工ペンチ)が含まれており、屋内配線の現場では一日中握り続ける道具です。なお、JIS規格としては JIS B 4623(ペンチ) に主要メーカーの電工ペンチが準拠しています。

電工ペンチは大きく4つのパートで構成されています。
- 先端(細工部):細く尖って細工しやすい
- 噛み合わせ部(刃):銅単線を切断する箇所
- 支点(リベット):ガタつきの少ない国産品が安心
- グリップ(エルゴノミック):滑り止め+絶縁性のものが理想
電工ペンチの選び方【4つのポイント】
① サイズ(全長)
電工ペンチは 150mm / 175mm / 200mm が中心。電気工事士なら 175mm が最もバランスが良い とされ、技能試験の標準サイズでもあります。
| サイズ | 用途 | 対応電線太さの目安 | おすすめ層 |
|---|---|---|---|
| 150mm | 細物・精密作業 | VVF 1.6×2c程度まで | 手の小さい方・狭所作業中心 |
| 175mm(試験標準) | 第二種電気工事士技能試験/屋内配線 | 銅単線 φ3.5mm/VVF 2.0×3心 | 受験生・屋内配線中心の方 |
| 200mm | 汎用・現場全般 | 銅単線 φ4.0mm前後/太めのVVF | 幅広い作業を1本で済ませたい方 |
| 225mm | 太線切断・力作業 | 2.6mm以上の単線・幹線 | 幹線・配電盤工事中心 |
※ 対応太さはモデルによって異なります。購入前に必ず各メーカーの仕様書で切断能力を確認してください。
② 噛み合わせの精度
刃部の 噛み合わせの精度 は実物を見ないと分かりにくい部分ですが、品質の差が最も出るところです。先端が完全に閉じる、ガタつきがない、切れ味が落ちにくい──このあたりは国産メーカー(フジ矢、ロブテックス、KEIBA)が安定しています。
③ グリップの形状・素材
長時間握っても疲れないエルゴノミックグリップを選びましょう。汗をかいても滑らないラバー系が理想です。
④ 絶縁グリップ(電気工事士なら推奨)
低圧活線作業を考えるなら、絶縁工具規格(IEC 60900:1000V以下の絶縁手工具)に適合した1000V対応の絶縁グリップ品を選んでください。ただし「絶縁工具」は基本的に死活確認後の予防的安全装備であり、活線で使う前提ではない点に注意。
試験用の定番:HOZAN P-43-175
第二種・第一種電気工事士技能試験の 試験会場でいちばん見かける のがホーザン(HOZAN)の P-43-175 です。
- 呼び寸法:175mm(実寸全長 約188mm)
- 切断能力:銅単線 φ3.5mm/VVF 1.6×3心
- 刃部硬度:HRC60
- 突合せ刃(先端まで刃が通り、心線処理がしやすい)
工具メーカー公開仕様の数字なので、試験対策として「指定どおり」を揃えたい受験生にはまず候補にしてよい1本です。
現場用の定番:フジ矢 175mm 電工ペンチ
筆者が日々の現場で使っているメインの1本です。フジ矢は大阪・八尾の老舗メーカーで、職人の中でも評価の高い国産ブランド。175mmの定番モデル(1050-175 系)は、メーカー公開仕様で 銅線 φ3.5mm/VA・VVF 2.0×3心まで切断対応、握りやすい樹脂グリップ、刃の硬度も十分です。
参考価格は 3,000〜4,500円前後(※2026年4月時点の通販サイト実勢価格帯。タイミングで変動します)。筆者の同型は手入れしながら業務使用で10年以上使えています(個人の使用経験です。耐久年数を保証するものではありません)。技能試験・現場どちらにも対応できる品質という印象です。
気になる点:刃部が銅単線・電線用のため、鉄線やピアノ線を本気で切ると刃こぼれの原因になります。用途を守れば長く使える反面、汎用ペンチ的に何でも切る使い方には向きません。
電工ペンチ 1050-175(プロテックグリップ・175mm)
フジ矢の175mm電工ペンチ。プロテックグリップ採用で握りやすく、VVF 2.0×3心まで対応。
- 全長192mm前後・175mmサイズ
- 銅単線 φ3.5mm 切断対応
- VA/VVF 2.0×3心対応
- 技能試験・現場ともに対応
※価格は変動します。クリック時点のショップ表示価格をご確認ください。
その他の国産・海外定番ブランド
電工ペンチは国産メーカーが安定して評価されています。以下のブランドも現場で広く使われており、可能なら店頭で握り比べてみてください。
- HOZAN(ホーザン) ─ 試験推奨の P-43-175 が定番。試験対策ならまずここから。
- フジ矢(FUJIYA) ─ 大阪・八尾の老舗。屋内配線の現場で最も見かけるブランドのひとつ。
- ロブテックス(ロブスター/LOBTEX) ─ 大阪・東大阪の老舗工具メーカー。切れ味重視のラインが多く、プロに根強い人気。
- KEIBA(マルト長谷川工作所) ─ 新潟・三条の老舗。噛み合わせ精度が高く、ニッパ・ペンチ系のクオリティに定評。
- マーベル(MARVEL) ─ 電設工具メーカー。ペンチは MC-1050-175 などの175mmモデルがあります。
- ベッセル(VESSEL) ─ コスパに優れ、最初の1本に向くモデルが多い。
- KNIPEX(クニペックス/ドイツ) ─ 電工ペンチは国産が握りやすいという声が多いものの、コブラ(ウォーターポンププライヤー)の評価は別格。後述します。
いずれも175mm前後・3,000〜6,000円帯(※2026年4月時点の通販サイト実勢価格帯、変動あり)に主力モデルが揃っており、筆者の使用経験では大きく外したことはありません。握り心地は手の大きさで変わるので、可能なら工具店で実物を握ってから決めてください。
あわせて持ちたい関連工具:KNIPEX コブラ(ウォーターポンププライヤー)
電工ペンチではありませんが、ロックナット締めやコネクタの増し締め・バラシ作業で活躍する関連工具として、ドイツKNIPEX(クニペックス)の コブラ はプロの腰道具に欠かせない一本です。電工ペンチと「両方持つ」のがプロの定番運用。
サイズは250mm(中型)が万能。詳しくは電気工事士の腰道具の中身を全部公開で他の常備工具とあわせて紹介しています。
電工ペンチ・ニッパ・圧着ペンチの使い分け
「ニッパで代用できる?」「圧着ペンチと何が違う?」──混同しがちな3工具の役割分担を、まずベン図で整理します。結論:役割が違うので、それぞれ別に揃えるのが基本です。
3工具のちがい(用途別)
- 電工ペンチ:心線の切断・折り曲げ・整形が主用途。屋内配線でいちばん使う1本
- ニッパ:細線の切断専用。インシュロックや制御線などを正確に切る
- 圧着ペンチ:リングスリーブや裸圧着端子の 圧着専用。電工ペンチでは代用不可(圧着加工は JIS C 9711 適合の圧着工具を使う必要があります)
技能試験では電工ペンチと圧着ペンチは指定工具の別物です。混同しないよう注意してください。

形状の違いを整理すると次のとおりです。
- 電工ペンチ:先端が細く、刃部あり。折り曲げ・整形・切断が1本でできる(主な用途:心線切断・のの字曲げなどの整形)
- ニッパ:刃が細く切断専用。細線をきれいに切れる(整形は不可)。主な用途は細線切断・インシュロック切り
| 作業 | 電工ペンチ | ニッパ |
|---|---|---|
| 太い心線(VVF 2.0×3心)切断 | 〇 | △ 強力ニッパなら可だが負担大 |
| 細線(0.5mm制御線)切断 | △ 先端でつぶれやすい | 〇 |
| 心線の折り曲げ・整形(のの字曲げ等) | 〇 | × |
| インシュロック切断 | △ | 〇 |
| 第二種技能試験の指定工具 | 必須(ペンチ) | 任意 |
電工ペンチが「整形+切断の万能タイプ」、ニッパが「切断特化」と覚えてください。とくにのの字曲げ(ランプレセプタクル等の端子に巻き付ける加工)は試験の必須作業で、電工ペンチの先端形状が活きる場面です。
電工ペンチを長持ちさせるコツ
- 鉄線を切らない: 銅単線専用。鉄線を切ると刃が一発で欠けます
- 使用後に油を一滴: 関節部にミシン油や CRC を吹くだけで動きが滑らかに
- 落下注意: 高所からの落下で噛み合わせが歪むことがあります
- 濡れたら拭く: サビの原因。特に湿気の多い夏場は乾いた布で拭く習慣を
電工ペンチが向いている人 / 向いていない人
向いている人
- 屋内配線(VVF 1.6/2.0mm)を毎日触る電気工事士
- 心線の切断・折り曲げ・整形を1本でこなしたい方
- 技能試験で「指定工具どおり」の構成を整えたい受験生
向いていない人(別工具を検討してよい人)
- 細線(制御線・信号線)の切断が中心の方 → 強力ニッパが向きます
- 太径ケーブル(CV 14sq以上など)の切断が多い方 → 大型ケーブルカッターが必要
- 鉄線・ピアノ線の切断を頻繁に行う方 → 強力型のラジオペンチや専用カッターを別途
まとめ
電工ペンチ選びのポイントを最後にまとめます。
- サイズは 175mm が標準(試験・屋内配線の主力)
- 試験用なら HOZAN P-43-175(突合せ刃・175mm・銅 φ3.5mm/VVF 1.6×3心対応)が無難
- 現場用なら フジ矢 1050-175 などの175mmペンチが定番(VA・VVF 2.0×3心対応)
- 国産ブランド(HOZAN・フジ矢・ロブテックス・KEIBA・マーベル・ベッセル等)は筆者の使用経験では外れにくい
- ニッパ・圧着ペンチとは別物、それぞれ揃えるのが基本
- 手入れ(油差し・拭き取り)で寿命が大きく変わる
電工ペンチは 腰道具に毎日刺さる相棒。筆者の経験では安価すぎるノーブランド品は短期間で買い直しになるケースもあったので、信頼できるブランドの1本を選ぶと結果的に長く使える印象です。
関連記事として電気工事士の腰道具の中身を全部公開、VVFケーブルの剥ぎ方 5つのテクニック、絶縁抵抗計の使い方はメガー(絶縁抵抗計)の使い方、ストリッパーの製品比較はVVFストリッパー比較もあわせてどうぞ。
よくある質問
- 試験用の電工ペンチでおすすめは?
- 第二種電気工事士技能試験では HOZAN P-43-175 が試験会場でもよく見かける定番です。呼び寸法175mm・銅単線φ3.5mm/VVF 1.6×3心切断・刃部硬度HRC60で、試験課題に必要な作業が無理なくこなせます(メーカー公開仕様)。
- 電工ペンチと一般ペンチ、どこで見分けますか?
- 先端が細く尖っている、切断刃部が銅単線を切れる仕様、グリップが滑り止め加工されている──この3点で判別しやすいです。一般ペンチは先端が太く、グリップは樹脂のみのことが多いです。
- サイズ違いで複数買うべきですか?
- メインは175mm、サブで150mmがあると死角が減ります。スイッチボックス内の細かい作業や、握力に自信がない方には150mmが扱いやすいです。200mm以上は太線・幹線工事向きなので、屋内配線中心なら175mm 1本でも多くの場面に対応できます。
- 海外ブランド(KNIPEXなど)と国産、どちらが良いですか?
- 電工ペンチ単体では、握り心地・コスパの面で国産(HOZAN・フジ矢・ロブテックス・KEIBA等)が選びやすい印象です。KNIPEXはコブラ(ウォーターポンププライヤー)の評価が高く、用途別に使い分けるのが現実的です。
- 電工ペンチと圧着ペンチは同じものですか?
- 別物です。電工ペンチは心線の切断・折り曲げ・整形用で、リングスリーブや裸圧着端子の圧着には使えません。圧着加工は JIS C 9711 適合のリングスリーブ用圧着工具(HOZAN P-738/P-77、ロブテックス AK17A など)が必要です。
- 中古の電工ペンチは買っても大丈夫ですか?
- 筆者はおすすめしません。刃の噛み合わせは経年で歪むことがあり、外見では分からないトラブルが起きる場合もあります。3,000〜4,500円前後(※2026年4月時点の通販サイト実勢価格帯)で新品が買えるので、新品を選ぶのが無難です。
- 電工ペンチで指を切ったりしませんか?
- 切断時に切れ端が飛んでケガをするケースはあります。長時間使用で握力が落ちた時にも注意が必要です。手袋の着用、切断対象を相手側に向ける、保護メガネを使う──といった基本を守ることでリスクを下げられます。



